黄金の国ジパングと大航海時代の西洋人から羨望された日本。彼らの目に宝物と映ったものの中には、金銀の蒔絵を施された調度品・漆器の類がたくさんあったに違いありません。そのすべてに漆(うるし)が使われていたのは、言うまでもありません。さらに言えば、縄文時代の出土品に漆の塗られた器があるそうです。数千年もの昔、我々の先祖がどの様にして漆という液体を発見し、それを木に塗ることに始めたのか、ちょっと想像しても古代人の知恵に驚かされます。漆を木にぬると木が丈夫になる、どうやってそんなことを発見したのでしょうか? ある日、傷ついたうるしの木から液体が流れ出ているのを発見し、それが次第に"かさぶた"のように乾いていく様を見るにつけ、自分の作った木の器にその液体を塗ることを思いついたのかもしれません。
うるしの木は、自らが傷つくと必死になって樹液を傷口から出し、傷口を固めて身を守ろうとします。それを利用して漆掻きと呼ばれる方法で採取されたものが、漆のもと(荒味漆)です。それを精製したものが精製漆。よく漆塗りの漆器に見られるような黒や朱色は、この漆に鉄紛や弁柄など各種顔料を加えて練りこんだものです。
漆は乾燥する過程に独特の条件が必要だったり、時間が掛かったりする反面、ひとたび乾けば強固な塗膜になります。防水性、耐薬品性、耐アルコール性などに富み、防腐性能や今はやりの抗菌性まで兼ね合わせた漆の塗膜は、その優雅な光沢や色合いも相まって、まさに"木"にとってのベストパートナーと言えるでしょう。
擦り漆とは
お椀とか皿にみられる黒塗り・朱塗りの光沢のある鏡面仕上げの漆塗りは、工程数も多く熟練の技が必要です。漆塗りにはそれとは別に、漆を木に擦り込みながら行う擦り漆という技法があります。この技法は木の持つ木目を鮮やかに浮き立たせながら、漆はあくまでも薄塗りで木の肌を生かした塗装ができます。使う木によって色味も木目の表情も様々な変化を見せ、塗りこみ回数によって深みを増してきます。
今回は、比較的取り組みやすいこの"擦り漆"をご紹介させていただきたいと思います。
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